10/06/2026
ブルゴーニュワインは何故高いのか?
― 品質も値段並みに向上している ―
近年、ブルゴーニュワインの価格高騰が話題になることが多い。
「昔は数千円で買えたワインが今では数万円」「特級畑は投機対象になってしまった」など、嘆きの声も少なくない。しかし、ブルゴーニュワインは本当に“高くなっただけ”なのだろうか。
私はそうは思わない。
確かに価格上昇の最大の理由は需給関係にある。ブルゴーニュの銘醸畑は面積が限られ、生産量は増やせない。一方で世界中の富裕層やコレクターが購入を希望する。年間わずか数千本しか造られないワインに対して、世界中に数千人の購入希望者が存在すれば価格は下がらない。
これは不動産で言えば銀座の一等地と同じである。
土地そのものが希少であり、供給を増やせない。ブルゴーニュの特級畑もまた、世界で唯一無二の立地を持つ「ワインの一等地」なのである。
しかし、価格上昇を単なる投機やブランド力だけで説明するのは不十分だ。
なぜなら品質そのものも、過去数十年で劇的に向上しているからである。
1980年代から1990年代にかけてのブルゴーニュは、現在ほど安定した品質ではなかった。収穫時期の判断、選果技術、醸造設備、衛生管理など、現在から見ると改善の余地が多かった。
ところが近年は栽培技術が大きく進歩した。畑ごとの成熟度管理は精密になり、収穫時には徹底した選果が行われる。醸造設備も近代化され、欠陥のあるワインは著しく減少した。
さらに気候変動も品質向上に一役買っている。
かつてのブルゴーニュではピノ・ノワールが十分に熟さない年も少なくなかった。しかし近年は温暖化の影響で果実の成熟が安定し、色調や果実味、タンニンの完成度は明らかに向上している。
もちろん気候変動には霜害や猛暑など新たな問題もあるが、少なくとも多くのヴィンテージにおいて、果実の完成度は昔より高い。当然手間も掛けている。
その結果として、現在の優良生産者のワインは驚くほど美味しくなった。
価格だけを見れば「高騰」である。しかし品質だけを見れば「進化」でもある。
だから私は、ブルゴーニュを楽しむなら高価な特級畑を追いかける必要はないと思っている。
むしろ一流生産者が造るACブルゴーニュや村名ワインにこそ価値がある。
ブルゴーニュでは「格付けを買うな、生産者を買え」と言われる。優れた生産者のACブルゴーニュは、一部の平凡な一級畑よりも魅力的なことさえある。
1万円以下で美味しいワインを探すのであれば、有名ドメーヌのACブルゴーニュは今でも有力な選択肢だ。
特級畑の価格は今後も下がりにくいだろう。世界中の富裕層がその希少性を求め続ける限り、市場原理は変わらない。
だが、ブルゴーニュの本当の魅力は価格ではない。
小さな畑の違いを映し出す繊細さ、造り手の哲学が表現される個性、そして何よりグラスの中で語りかけてくる土地の物語にある。
高くなった理由は確かに希少性だ。しかし高くなった今でも、多くのワインがそれに見合うだけの感動を与えてくれる。
そこがブルゴーニュの凄さなのである。
執筆 南喜一朗